■グレートマジンガー出撃に挑む■


ダイナミック企画(C)

前回はマジンガーZの格納庫について考察しましたが、今回はグレートマジンガーの出撃について考えてみます。今更説明するまでもありませんが、グレートマジンガーはマジンガーZの後継番組で、ミケーネ帝国の戦闘獣に破れたマジンガーZに代わって戦います。造ったのは兜甲児(マジンガーZのパイロット)の父、死んだと思われていた剣造です。彼は将来の戦いに備えて、密かにZをパワーアップしたグレートマジンガーを建造していました。(剣造が建造って、ダジャレじゃないよ)

グレートマジンガー(以下グレートと略称)は全てにおいてマジンガーZ(以下Zと略称)を凌駕します。外観を見てもわかる通り、デザインも洗練されて強化版をアピールしています。新たに搭載されたサンダーブレイクやグレートブーメラン(ブレストバーンの熱放射板を外してブーメランにする)、敵を切り裂くマジンガーブレード等に加えて、自力飛行可能なスクランブルダッシュ機能を搭載、改良点は多岐に渡ります。

また、頭部の操縦ユニットに当たる飛行マシンは、ジェット機のブレーンコンドルとなりました。Zでは途中から主推力がジェットエンジンとなって強化されましたが、グレートでは更なる高速飛行化が図られています。ただし、ホバーパイルダーやジェットパイルダーのような垂直離着陸機能は無いと推測されることから(ストーリー内では機能の有無は不明)、小回りが効かない上に発進の際はカタパルトや滑走路が必要と思われます。スピードと機動性は相反する要素なだけに、どちらを優先するかは難しいところです。単独での戦闘を重視するなら、やはりスピードを優先した方が有利な展開になるでしょう。

グレートが自力飛行能力を獲得したことで、格納庫兼発進口は全く異なるものとなりました。なんと格納庫は海中にあり、発進の際は海底からグレートを打ち出すと言う離れ業を行います。しかも、空中から降下してくるブレーンコンドルと、寸分たがわぬタイミングで合体しなければなりません。失敗したら最後、グレートは海の藻屑に、ブレーンコンドルも大破して墜落です。とても人間業では不可能と思われるような、危険かつ高難易度の合体なのです。もっとも、ここはアニメと割り切って、スリルとカッコ良さを優先したいと思います。

実用を考えたら荒唐無稽としか言いようがありませんが、技術的に可能かどうか考えるのは意味があると思われます。もしかすると何かの建造の際にヒントになるかもしれないし、不可能を可能にするようなテーマを考えるのは好奇心を刺激します。とは言え、個人的には全く不可能だとは思っていません。実際に造るとなれば様々な力学的、物理学的緻密な計算が必要になりますが、それは知識と才能に溢れた専門家に任せるとしましょう。

余談になりますが、マジンガーZは放映途中で視聴率の低下を招き、挽回のために色々なアイデアが検討されたようです。兜甲児が新しい機体に乗る「ビッグマジンガーZ」や、神竜鉄也とスクランブルナイツが登場する「ゴッドマジンガー」等がそうです。ところがジェットスクランダーやボスボロットの登場で視聴率が回復し、そのままズルズルとZが存続することとなったようです。確かにZのストーリー自体はあまり出来が良くなくて、ほどんどのエピソードが個人的には面白くありませんでした。それでもスーパーロボットとして人気は高く、スポンサーや制作サイドの色々な思惑が絡んで、全92話の長寿番組となったわけです。

おかげで後継番組として既にゴーサインが出ていたグレートマジンガーでしたが、放映開始が伸び伸びとなってしまい、結局はZが破壊される衝撃的なラストに続く形で実現となりました。ストーリー自体はグレートの方が面白いと思うのですが、時代的に破壊の限りを尽くすような描写は控える傾向になり、全体的な活力は失われていったようです。それと後継の宿命として、どうしても二番煎じ的なイメージは避けられず、主人公も当時としては真面目で暗目なこともあって、Zを超えるような作品にはなりませんでした。やはりヒット作を生み出すのはなかなか大変なようです。


1.グレートとの合体プロセス
グレートの格納庫自体の詳細はよくわからないが、第1話の発進シーンを見ると、科学要塞研究所に隣接する海底に格納庫施設があるようだ。ブレーンコンドルの発進を悟られないように、研究所からパイプを通って陸地(半島?)の地下を巡り、最終的に海岸の崖に放置された難破船の後ろの穴から飛び出し、再び研究所まで戻って来るのだ。その間かなりの距離を移動するわけだが、無駄な時間と労力を費やしてまで、果たして隠密効果がどれくらいあるのかは不明だ。今時、難破船はかえって目立つし、どうせすぐバレるのだから最初から研究所から発進するのがベストではないか、とも思ったりする。もっとも、ロマンの世界にヤボなツッコミはやめておこう。

ブレーンコンドルの接近に伴い、海底格納庫にある発射管からタイミングを見計らってグレートが射出される。海上では渦を巻き、その中心からグレートが空中に飛び出す大胆な出撃シーンだ。推進器らしきものを使っている形跡が無いことから、射出の際の初速のみで慣性飛行を行っているらしい。水中では相当な水の抵抗を受けるため、射出時には大きなエネルギーが必要になるだろう。

水中から射出する場合、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)のように高圧ガスで発射管から打ち出す方法が考えられる。最初に渦が発生するのは、恐らく発射管に水が急速に流れ込むことによって起きる現象だろう。水を張った容器の底から水を抜く時に、水面に渦が生じるのと同じ現象だ。グレートの発進シーンを見ると、渦ができてまもなく水中から現れる。どうやら海を割って空洞の中を飛ぶのではなく、水中をそのまま移動するようだ。

問題は射出の際の高圧ガスの威力だが、例えば現在アメリカが保有するSLBMトライデントは全長10メートル程で、重量は約33トンとのことだ。グレートは身長25メートル、重量35トンとされているので、トライデントと重量はほぼ同じである。長さが2.5倍になって発射管の寸法が長くなるものの、発射の際の障害にはさほどならないものと考える。それよりもミサイルに比べて遥かに抵抗が大きな形状の方が問題だ。いずれにせよ、現在の技術でも十分実現可能なレベルではないだろうか。

SLBMはどの程度の水深まで発射できるのか。これは最高レベルの軍事機密で公開されるはずが無い。隠密性を保つためには水深50メートル以上は必要だとされているので、それより深い所から発射可能なはずである。攻撃型潜水艦の潜れる最大深度は300~400メートルと言われているが、水圧を考えると確実に発射できる最大深度はせいぜい100メートル程度ではないだろうか。

グレートの海底格納庫が陸地のすぐ近くであることから、水深は数100メートル以内に収まりそうだ。万一の事故等に備えて、人間が安全に作業できる環境を考えても、あまり深い海底には設置できない。隠密性の観点から水深50メートル以上と考えると、両者の範囲内でおおよその深度が決められる。実用性を重視するならば、格納庫に設置された発射管の上部を水深50メートル程度に設定するのが現実的だ。グレートの身長を考慮すると、格納庫底部は最大で水深100メートル程に収めることができるだろう。

射出の際はできる限り短時間かつ効率的に行わなければならないが、その部分は後で考察する。高圧ガスで発射管から射出されたグレートは、海上に向かって一直線に進んで行く。SLBMと違って人型のグレートは水の抵抗が大きいため、できる限り水の抵抗を小さくする対策が必要だ。SLBMの発射では、高圧ガスを水中に噴射することで泡の膜(空気層)を作り、ミサイルの前方の抵抗を減らす工夫がされている。同じ原理でグレート射出直前に高圧ガスを噴出すれば、やはり水の抵抗を減らす効果があるはずだ。水の抵抗を最小限に抑えるために、グレートをカプセルに収納して射出し、海上に出た時点でカプセルを分離して、グレート本体だけを飛ばす方法も考えられる。

水中から海上に飛び出したグレートは、第1話のシーンから推定すると、優に200メートル以上の高度まで上昇しているように見える。さすがにその高さまで安定飛行は困難だと思えるので、その半分の100メートル程度の高度を目指すことにする。グレートの重量や到達高度、水や空気の抵抗等から初速をどの程度にすれば良いかを算出できるはずだ。また、それを実現するための発射装置の能力も決まる。なるべく効率的に射出プロセスを進め、低コスト化するためのアイデアを追って考えてみる。

空中を一直線に飛行するグレートは、重力によって自然に減速する。自由落下に入る直前の静止した時に合体するのが理想だが、ブレーンコンドルの接近速度を微調整することで、多少誤差があっても合体は可能になる。当然、ブレーンコンドルの機首には精密な推力制御可能な逆噴射装置を備えていなければならない。それでもコンマ何秒と言う精度が要求されるだろう。「ファイヤー・オン」の掛け声で始まる合体プロセスで、特に重要なのが両者の接近に伴う相対速度だ。もしも許容範囲を超えた速度で衝突したら、衝撃でブレーンコンドルとグレート頭部が破壊される恐れがあるからだ。いかに訓練しても人間技では不可能なため、合体の詳細プロセスはコンピューターが担うことになる。

逆に言えば、グレートの頭上までブレーンコンドルを接近させれば、後はコンピューターが自動で制御してくれるため、エキスパートで無くても合体は可能なのである。精密誘導には電波とレーザーを使い、電波によってブレーンコンドルをグレート頭部の軸線上に誘導した上で、レーザーを使って距離や角度、速度等を微調整しながら接近して合体を果たす。やり直しはできないため失敗は許されない。わずか数秒の時間しか無い上に、グレート側は慣性飛行しているだけなので、ブレーンコンドルには高精度な飛行制御技術が要求される。極めて高度な技術ではあるが、現在のミサイル誘導技術を応用すれば不可能では無いだろう。