■TVアニメの夜明け前■

■実写が主体の子供番組
TV自体が一般にはあまり普及していなかった時代、もちろんTVアニメもまだ無かった頃、子供達の娯楽は野山や空き地を駆け回ることでした。そう、当時の子供達は、現代と比べてものすごく自由で健康的な日々を送っていたのです。

●プロローグ
連続TVアニメの放映が始まったのは1963年なので、もう50年以上も昔の話になります。当時の子供達に最も人気のあった「鉄腕アトム」が、国産第1号のTVアニメーションでした。アニメーションはものすごく手間がかかる作業で、TVで毎週放映するのは無理だと考えられていたのを、マンガ界の巨匠、故・手塚治虫氏らの努力によって実現したのです。

では、TVアニメ以前はどうだったのかと言うと、マンガはTVドラマの形で実写で作られていました。一般家庭にようやく白黒テレビが普及してきた頃で、TV自体がまだ新しいメディアだった時代の話です。当時放映されていた作品の中には、マンガ雑誌で人気のあった鉄腕アトムや鉄人28号等があります。まだまだTVは試行錯誤の段階を踏んでいたせいもあり、子供番組とは言え今から見れば稚拙な出来の作品が多かったようです。それでも当時の子供達は、この新しいメディアに魅了されていきました。

若い人達はこんな古い時代の作品のことには興味無いかもしれませんが、現在のマンガ・アニメの隆盛は、これまでの長い歴史の中で培われてきたものなので、過去を振り返ることはこれからを考える意味でも意義あることだと思います。それにマンガは時代を写す鏡でもあり、その当時の世相を色濃く反映しています。

この企画を始めるに当たって、まずはTVアニメ開始前を中心に、関連する話題を書こうと思います。そして中心的な展開は、TVアニメ開始から一世を風靡した宇宙戦艦ヤマト辺りまでを予定しています。かなりの部分が古過ぎて執筆自体も容易ではありませんが、ネットで参考資料を調査しつつ、少しずつ取り組んでいきたいと思います。特に本企画では、なるべく自分の記憶・経験を大切にして、他ではあまり触れられることのない観点からも解説していく予定です。年配の方なら当時を懐かしんで読んで頂けるとありがたいですし、若い世代の人には、こんな作品もあったんだと新鮮な発見をしてもらえればと思います。

●TVアニメ以前の作品
マンガと関係が深いTVドラマで有名なところでは、真っ先に月光仮面が頭に浮かびます。後にアニメ化もされたので、そちらの方なら知っているという人もいるでしょう。この時代の作品は、さすがに販売されているタイトルも少なく、たまに特集番組などで一部のカットが放映されて懐かしむ位です。子供番組の中には強く大人を意識した作品もあり、TVがまだまだ初期の段階にあって、色々な試行錯誤が行われていたことを物語っています。

当時は第二次大戦後、あまり年数が経っていないせいもあって、戦争をテーマやエッセンスにした作品が多くあります。また、時代劇も定番でした。大人の世界ではSF物はマイナーだったものの、子供達の間ではアトム等の影響もあってかなり定着しており、マンガ雑誌の世界では既に色々な作品が登場していました。鉄腕アトムや鉄人28号はその代表的な作品です。

子供達に人気のあった古いTVドラマをいくつか上げてみましょう。鉄腕アトム、鉄人28号、忍者部隊月光 、隠密剣士 、怪傑ハリマオ、少年ジェット 、赤胴鈴之助等々…。マンガが原作となったものや、並行あるいはドラマ後に執筆された作品もあります。個人的な感想ですが、忍者部隊月光はなかなか良い響きのタイトルだと思います。確かメンバーの中には紅一点がいたと記憶しますが、当時は女性メンバーが活躍するドラマは少なかったのです。なにせ、大和撫子は番組を引き立てるお飾りの役が当たり前の時代だったのですから。今ではとても考えられない事ですね。

マンガは時代を映す鏡でもあるのですが、時代の先導役でもあります。マンガから発信されたことが、やがて世間で一般化していく事例はいくらでもあります。1つはマンガが主に若い世代にアピールするメディアであることから、彼らの成長と共に文化として定着していく流れがあるからなのだと思います。以前はマンガは他のメディアに比べて軽んじられていたせいもあり、絶大な影響力を秘めたメディアだと考える人は少なかったのです。

しかし考えてみて下さい。例えば今の日本のロボットの進歩を。世界で最もロボット先進国であるわが国を作ったのは、鉄腕アトムがあったからだと言っても過言ではありません。その証拠に、最先端ロボットの開発者は一様に鉄腕アトムが目標だと語っています。なぜなら彼らの子供の頃のヒーローはアトムであり、その作品で感化された人々がロボットの歴史を作り上げて来たからです。現在はその先導役をゲームにとって変わられた感もありますが、依然としてその影響力の大きさが衰えたわけではありません。もちろん良いことだけに影響を与えたわけではなく、現在のモラルハザードを招いた一端には、マンガの責任が少なからずあるのも事実です。いずれにせよマンガには一般の人達が考える以上にすさまじい影響力があることを、特に制作者は肝に命じて欲しいものです。現在進行中の作品が、これからの未来を作るのですから。

ところで、前述した古い実写ドラマは、概して今のアマチュアの自主制作映画にも及ばない稚拙なものが多かったように思います。当時の低予算での制作事情や、子供向けと言うことで1ランク低く見られていたことから仕方なかったかもしれませんが、鉄人などはあの巨大ロボットが売りだったのに、実写では人間大のオモチャみたいになっていました。人気があったとは言えきっと幻滅した人も多かったに違いないと思います。

鉄腕アトムは元々等身大なので、鉄人に比べれば作りやすかったでしょうが、ドラマではあまりロボットらしくなかったため、逆に拍子抜けしてしまった感もあります。それに実写では裸同然のアトムはふさわしくなかったのか、黒いコスチュームを身にまとっていました。髪型は原作通りでしたが、マンガでは自然に見えても実写ではやはり違和感があります。それでも当時は娯楽が少なかったこともあって、子供達は熱狂したものです。テーマソングはみんなが知っているあの歌ではなく、「ぼ~くは無敵の~、鉄腕ア~ト~ム~」というフレーズでした。古い時代の作品テーマソングはマーチ調のものが多く、どれも軍歌に相通じる勇ましい印象があります。特にTVアニメのアトムが始まってからは、あの名作のテーマソングが当時のパレード等では必ず演奏されるほどでした。音楽隊やオーケストラの演奏が現在市販されているかどうかはわかりませんが、ぜひ聴いて頂きたい逸品です。

話は変わって当時のマンガ雑誌はと言うと、時代が前後するかもしれませんが、漫画少年、少年、ぼくら、少年画報、冒険王等の月刊誌が頭に浮かんできます。もちろん少年サンデーやマガジンといった週刊誌が登場する前のことです。かなりボリュームもあり、毎回豪華な付録が付いていました。それが目当ての子供も多かったと思います。今から思えば紙だけでずいぶん色々な物が作られていたものだと、そのアイデアの豊富さに感心します。動力源に輪ゴムを使い、びっくりするほど複雑な動きの仕掛けもありました。

昔のマンガは現在と比較すると技術レベルが低いものが多かったようですが、作家達がマンガにかける熱意は、今より遙かに純粋で情熱的だったと思います。世間では低レベルの娯楽のように認識され、マンガは社会的な地位が低かっただけに、彼らの努力と作品にかけるパワーはたいへんなものだったに違いありません。今のマンガの隆盛は、こうした黎明期の先駆者達の努力と、その後に続く作家達の情熱・才能の結晶なのです。

時代と共に成長してきたマンガですが、私自身マンガ雑誌に関しては少し出遅れたものの、黎明期のTVアニメ作品に幼い頃に出会い、その後もずっとマンガを見守ってくることができました。もしもマンガが無ければ、人生がひどくつまらないものであったに違いないと今更ながら思い、実に幸せだったと感じています。そんな私のマンガへの関心は、鉄腕アトムと鉄人28号から始まっています。なにしろ、幼い頃の思い出と言えば、鉄人とアトムの絵をひたすら描きまくっていたことばかりです。空想好きだった私は、この2大作の描くSFの世界にすっかり魅了され、虜になってしまったのでした。現在に至るまでの数十年、その影響力は計り知れないことを実感しています。マンガとは人の一生を左右するほどの絶大な威力を持つメディアなのです。