■前田建設ファンタジー営業部にチャレンジ■

2.問題の本質
課題が浮かび上がったところで本題に入ろう。問題の本質は、格納庫上部の扉開閉システムとその構造にあると考えられる。前田建設が考えたのは、汚水処理場プールの下側にスライドする扉を設置する案だが、水を下にスムーズに流すために、中央を分離した上に中央が下がったV字構造をしている。当然、水圧は中央の扉接合部に大きくかかり、ゴム等による止水は必須になる。扉を開く際には斜め上に引き上げるために、モーターへの負荷も大きなものとなる。

最大の問題は放出された汚水の行き場だ。真下にはマジンガーがあるため、流水はまともにマジンガーに降りかかる。その後は床に落ちて格納庫の下部は水浸しだ。それを回収するためのタンクも必要になるだろう。大きな高低差がある中で、ポンプで水を地上まで汲み上げるだけでも大変だ。設備も電力も相当大きなものにならざるをえない。しかも汚水による弊害も見逃せない。マジンガー自体は超合金だから良いとしても、毎回水浸しになる格納庫の劣化は避けられない。

問題はもう1点ある。今回は深くは触れないが、マジンガーをリフトアップするための油圧ジャッキの設備についてだ。構造が比較的単純なため、製造自体はさほど難しくは無いだろうが、今回の仕様を考えた場合に大きな課題が二点見えてくる。1つはジャッキの段数にもよるが、ジャッキ本体部分もかなりの長さが必要になることだ。おかげで地上からの深度は、必要以上に深くならざるをえない。当然、上のポスターを見ればわかるように、マジンガーの身長に対して格納施設全体の深さは、非常に大きなものとなってしまう。深いほど掘るためのコストも上がるため、掘削のためのコストは全コストの中でも大きな割合を占める。実現のためのコスト圧縮は、受注落札上も必須課題でもあるのだ。

更に油圧ジャッキの実現にも困難な点がある。油圧ジャッキはシリンダーに油を注入し、その圧力でピストン状のものを押し出す構造だ。しかし、マジンガーのリフトアップは相当高速のため、物凄い勢いで油を注入しなくてはならない。沢山の強力な油圧ポンプを並べて一気に注入する必要があり、コストは通常の油圧ジャッキの比ではないだろう。そもそも現存する油圧ポンプで、そこまでの性能が出せるのだろうか。前田建設が当たった専門業者はそのようなポンプは無いと言っていたが、無いなら作るだけだと胸を張っていた。いずれも技術力に自信があるからで、何とも頼もしい限りだ。

3.改善案
前述のように、着目したのは格納庫上部構造体だ。考えたのが下図のような扉の二重構造である。汚水プールの底となる第一扉と、扉が開いた際に流水を受け止めるための第二扉を設置する。いずれも中央が上に傾斜した逆V字形で、傾斜角は第二扉の方が大きい。この角度が大きいほど、扉が開くに従って流水の高低差が大きくなり、よりダイナミックな演出になる。


マジンガー出撃の際は、まず第一扉を開き始めることで、水が下に流れ落ちて第二扉に注ぐ。すると、第二扉は中央が盛り上がった形になっているため、水は第二扉をつたって壁に設置した排水口に流れて行くことになる。第一扉がある程度開けば水面が二つに割れるため、ややタイミングを遅らせて第二扉を開き始める。両扉は開くタイミングが異なるだけなので、ギアで連結して動力を共通化すればコストダウンも可能だろう。ただし、戦闘によって破壊される可能性もあるため、単独で開閉可能にする方がより望ましい。

こうすれば汚水がマジンガーに降り注ぐことも無く、汚水が壁側に流れ落ちながら格納庫の扉は開く。オープニングで見たような、水面が割れて水が流れ落ちる中を、マジンガーが出撃するシーンが再現できるはずだ。第二扉は逆V字のため、マジンガーをギリギリまで寄せれば格納庫の深さもより浅くできる可能性がある。逆V字によって扉の合わせ目は閉まる方向に力を受けるため、止水のためのゴムパッキングも小型で済む。第二扉は最初のタイミングでまともに流水を浴びるが、短時間だし水圧もさほど高くないため、パッキングまでは必要無いだろう。第二扉の止水板は、流水がはねて格納庫下に落ちるのを避けるのが主目的であり、最初の流水を受け流す役割も持つ。

壁の周囲に水を臨時貯蔵するタンクを設置すれば、汚水プールにも近いために元に戻すのも簡単だ。ポンプ設備も小型で済むし、地面に近い部分を掘れば良いので掘削コストも下げられる。当然、格納庫自体の深さも抑えられるはずだ。汚水プールの形状等を工夫すれば、落ちた水自身の圧力で汚水をある程度戻すことも可能ではないだろうか。例えば汚水プールの壁側に段差を付けて、中間貯蔵部を設ける方法だ。水流で発電してエコに運用することも考えられるし、プールとの高低差も更に縮められる。

二重扉のアイデアは、原作を忠実に再現するという意味では主旨から外れるかもしれない。しかし、より安くて良い製品を作るのもメーカーの務めなので、逆に発注元にコストダウンの提案するのも有りだろう。つまり、こうしたやりとりによって更にアイデアを熟成することで、現実世界での技術にも反映させていくことができるかもしれないのだ。元はフィクションから始まったとしても、いずれリアルにも貢献できる可能性があるのなら、企業が大真面目に考えるのも意味があると考えるがいかがだろう。