■前田建設ファンタジー営業部にチャレンジ■

4.更なるアイデア
マジンガーZの格納庫の機能として、もう1つ大事なのが2.でも触れたリフトアップ機構だ。数十メートルもの高さを10秒程で移動させるのは、現代の技術をもってしてもかなり難しいようだ。前田建設では油圧ジャッキによって持ち上げる方法で挑んでいたが、原作当時のアイデアとしては妥当なところだろう。ただし、現代の技術なら別の有望な案がある。それは電磁カタパルトを使う方法だ。

電磁カタパルトそのものは結構昔からあるアイデアで、SFの世界ではロケットの打ち上げ等にも使われている。水平状態の軌道上を、ロケットを乗せたカタパルトが加速しながら移動するものだ。先端に行くほど軌道の傾斜が大きくなり、最後に垂直状態で最大加速に達したところで、ロケットを噴射して双方の力で空中に飛び出す。「宇宙戦艦ヤマト」でアンドロメダが就航する際にも使われた。発進の補助に使われることが多く、「機動戦士ガンダム」ではモビルスーツの発艦にも利用されている。

電磁カタパルトで今回の目的に近いものは、「新世紀エヴァンゲリオン」で、エヴァを地底のジオフロントから地上へ射出する際に用いられるものだ。リニア新幹線と原理的には同じで、超電導磁石を使ってカタパルトを移動させる。水平移動であれば、実現は比較的簡単ではないかと思われる。しかし、垂直となるとそうはいかないだろう。電磁力だけで引き上げるのだから、恐ろしく強力な磁力が必要になる。短時間とは言え莫大な電力を消費するだろうし、設備を考えると油圧リフトよりもかなりコストアップする可能性もある。より精査が必要だろう。

代案として、マジンガーを乗せるリフト(台座)にロケットブースターを使う方法も考えられる。リフトはガイドに沿って垂直に移動することになる。ブースターに固体燃料を使えば構造も簡単だし、コストも比較的安く抑えられるはずだ。問題は地上に達した時にほどよくブレーキがかかるように、燃焼圧力や燃焼時間等を綿密に設計しなければならない点だ。ブースターだけではそこまで精密にコントロールできないだろうから、電磁ブレーキを併用するのはどうだろう。これならエレベーターのように、コンピューターで正確に制御可能と考えられる。

この方法の優れている点は、比較的コンパクトにまとめられる点で、ブースター自体も現代のミサイル技術で実現できるはずだ。電磁ブレーキもありふれた技術で、カタパルトに内蔵するバッテリーでも駆動可能だ。リフト内でほぼ完結するシステムにすれば、他の施設が破壊されてもリフト単独で昇降を維持できる可能性が高い。研究所が敵との戦場になった時、周囲に依存するようなヤワなシステムでは、肝心な時に機能不全に陥ることも想定しなければならない。

そう言う意味では、格納庫の出入り口が1ヶ所というのも心もとない。ストーリーでは格納庫の上部を破壊されたこともあり、台座を横にスライドして汚水処理場の脇の地面を突き破って外に出る荒業を披露する場面もあった。「UFOロボ・グレンダイザー」の基地のように、色々なルートを用意するのもコストの許す範囲で検討に値する。更に言えば、ドラマ後半ではジェットスクランダーが登場するので、最初からマジンガーに装着しておけば、格納庫もかなりシンプルなものにできる。


現実的に考えれば、格納庫の改善点は多岐に及ぶが、やはり目玉であるプールが二つに割れて、下からマジンガーがせりあがって来るシーンは外せない。なぜならそこには大いなるロマン(?)があるからだ。しかも単独で立つところに意味がある。カタパルトにガードされての登場では、本来の格好良さがスポイルされてしまうのだ。現実とのギャップは残るものの、ここは発注条件として真摯に受け止め、マジンガーが立ったままリフトアップできる策を講じるべきと考える。

5.総括
マジンガーZの格納庫は面白いアイデアだ。そこに目を付けた前田建設は、実に目の付けどころがシャープである。原作のアニメ自体は50年も前のものなので、当時としては未来の技術と思えるようなメカが多数登場する。現代なら実現できるものもあれば、到底不可能なものまで千差万別だ。マンガやアニメは独創的な発想の宝庫であり、未来まで通じるアイデアが詰まっている。

一説では、人間に考えられることは実現可能だとも言われる。アイデアが先にあって、それをどう実現するか更に考え、様々な技術を蓄積してやがて実現に至る。前田建設の行った試みは、荒唐無稽なざれ事では無く、ごく当たり前の技術探求に過ぎないものだ。恐らくファンタジー営業部の発足当時は、白い目で見る者達も大勢いたと思う。昔はマンガやアニメは幼稚なものだと、バカにする風潮が世間にはあった。ところが今や世界的なエンターテインメントの地位を獲得して、世界中に熱狂的なファンを抱えている。人々の見る目が変わるのも必然だろう。

なぜマンガやアニメにそれほど人々が熱狂するのか。それは100%創造物の結晶だからではないだろうか。絵にするまでは何も無い無の世界だ。たとえ現実に存在するものを絵に描いたとしても、写真と違って描いた時点でそれは創造物になる。特にアニメは音楽を含めて創造の集大成だ。考えてみて欲しい。他のエンターテインメントにそのようなものはあるだろうか。これほどの創造物の宝庫は、アニメが唯一無二なのである。

そんな中で生まれた作品の一つがマジンガーZだ。本来であればマジンガーの実現にスポットを当てたいところだが、現代の技術で可能な部分は多くは無い。超合金Z、光子力エネルギー、光子力ビーム、ブレストファイヤー、ルストハリケーン、ロケットパンチ、ジェットスクランダー等々、どれをとっても未だ実現不可能なものばかりだ。それでも技術の芽はあちこちにある。やがて実現するようなものもあるだろう。

今回着目された格納庫は、前田建設にとって本業の技術を発揮するまたとないアイテムだ。全く実現不可能なものでは無く、もしかしてできるのではないかと思わせるものがある。見るからに難易度の高いものであるし、実際に発注が来て作る代物でも無いので、考えるだけ無駄と言うのが大方の見方だったろう。それを実現した企業風土にまずは拍手を贈りたい。

技術と言うものは目標があって進歩するものだ。まずはやってみようという心構えが大切だと思う。色々精査しているうちに問題点が明らかになり、対処するための方法を考えることになる。柔軟な発想が求められるため、頭の体操にももってこいだ。今すぐには役に立たない技術だったとしても、いずれ恩恵を受ける時が来るかもしれない。何よりも夢のある話なので、とかくマンネリとルーチンワークに陥りがちなビジネスの中で、やる気MAXを引き出す1つの方法でもある。他の企業にもぜひお勧めしたい取り組みだ。もちろん会社の得意分野を活かす方向でテーマを探すのが、より重要であり効果的なのは言うまでも無い。企業間で競い合えば、業界自体の発展にも大いに貢献することだろう。